「本稿では,麻酔による無痛分娩の普及率の低さは,文化的要因よりもむしろ医療従事者の利害紛争という制度的拘束に起因する,と考える。すなわち,日本では戦後,人工妊娠中絶を合法化した優生保護法(1948)の制定によって組織化された産婦人科医集団に,出産介助の中心的アクターとしての立場を奪われた助産婦たちが,1980 年代以降,自らの職業的存在意義を求めて「自然」なお産運動を推進していったことに由来すると考える」
麻酔分娩をめぐる政治と制度 ― なぜ日本では麻酔による無痛分娩の普及が挫折したのか ― https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsts/21/0/21_1/_pdf
「周産期医療分野において医師に対して補助的役割とされていた助産婦が,分娩介助者の主役としての失われた立場を復権させるために,「自然」なお産としてラマーズ法を日本で普及させる強力な推進者となった」
「日本において麻酔による無痛分娩の普及率が極めて低いのは,痛みを耐える事への美徳や子供への愛情という文化的意味づけ以上に,技術導入のタイミングや医療従事者の利害紛争といった制度的拘束にある」
「助産婦は自らの復権をかけ,その職業的存在価値としての「自然性」を強調し,「自然なお産」運動を推進していった。その結果として,日本では麻酔分娩の普及が試みられつつも,それが定着する以前のタイミングにおいて自然なお産運動が展開されたために,麻酔による無痛分娩が普及する機会が逸せられることとなった」
麻酔分娩をめぐる政治と制度 ― なぜ日本では麻酔による無痛分娩の普及が挫折したのか ― https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsts/21/0/21_1/_pdf